競馬斤量の影響(負担重量とスピードの関係)

結論から先に言うと、斤量は確かに競走能力に影響があるものの、我々競馬ファンのイメージよりもその影響度はかなり小さいと言えます。

※斤量とは、競馬において騎手の体重や鞍(くら)などの馬具を含めた、各馬ごとに定められた負担重量の事を言います。

誤用に注意
:斥量 – せきりょう
:斤量 – きんりょう

斤量設定の理由と決め方

競馬では強い馬ばかりが勝ちすぎたり、技術で新人・若手にまさるベテラン騎手ばかりに騎乗依頼が集中しないよう、斤量でバランス調整してるわけですね。

馬齢戦・定量戦では各馬等しい斤量と決まっています。別定戦では獲得した収得賞金や特定のレースの勝利があるかどうかで重量が決まります。ハンデ戦では各馬の現時点の能力によってハンデキャッパーの人が斤量を決めます。

【30秒でわかる競馬のあれこれ】Part6 負担重量編 | JRA公式

他にも牝馬・女性騎手・新人騎手には減量と言って斤量が少し軽くなる恩恵があります。※斤量の決め方について、もっと詳細に知りたい人はJRAの公式解説が参考になるよ!

斤量の競走への影響

斤量なんて関係ないという考え方の人もいるけど、全く関係なくはないものの、1キロ2キロの差は殆ど考慮に値しない場合も多い。

5キロくらい違うと有利なのがわかりやすい。凱旋門賞のように強い馬同士で5キロ差があると軽い馬が良く勝つけど、JRAの一般的なハンデ戦とかだと、弱い馬が強い馬より5キロ軽くても、それでも勝てない場合は結構多い。

つまりケースバイケース!

軽い=速いとは限らない

中央競馬にハヤブサペコチャンという馬がいたんやけど、この馬は現在で言う1勝クラスの時に札幌競馬場のダート1700mで55キロの斤量で1分45秒8の時計を出してる。

でも2勝クラスになって負担重量51キロにも関わらず、同じ札幌競馬場のダート1700mで1分46秒1で走ってる。

この時の方が斤量が軽く、しかも馬場状態は「やや重」で水分を含んでいて、乾いた良馬場よりも速いタイムが出やすかったのに。

馬場がスピードが出やすい馬場であり、かつ斤量が4キロも減ったのに、走破タイムが遅くなった事例は他にもあり、軽いから速いとは限らない。

1キロ1馬身説

昔からよく言われるのが1キロ≒1馬身≒0.2秒という説なんやけど、全く影響が無いとは言えないし、1キロでタイムが1秒も2秒も違うわけでもないから、大体コンマ1秒2秒の影響であると言うのは説として妥当なラインなのかも知れない。

誤解しないで欲しいのは、先程のハヤブサペコチャンの事例を見ても分かるように、斤量が変わったからと言って、必ずしも競走のパフォーマンスが変わるとは言い切れない。

では斤量は競走馬の何に影響を及ぼすのか?以下で詳しく解説していく。

斤量は何に影響するのか

スピードと重量の関係を調べるために、ミニ四駆におもりを載せて走らせ、タイムを計測する実験をした事がある。

ばんえい競馬(巨大な馬に荷を乗せたソリを引かす競馬)でも、普段のレースと荷を極端に軽くした企画レースとでは、明らかにスピードが全然違う。

斤量の重いレース

斤量の軽いレース

サラブレッドの平地競走でも、騎手が落馬した空馬(からうま)がトップでゴールする事多いけど、空馬は40キロ以上軽くなってるから、それは重量の影響も大きい。

けど実はサラブレッドの疾走する速度ぐらいになると、斤量の1キロ程度の重量は最高速のスピードにはほとんど影響がない。

スピードが最高速以上に上がらない理由は重量より空気抵抗が大きい。

スピードが速い時は空気抵抗の影響が大きく、低速域では重さの影響の割合が大きい、つまり加速・瞬発力に斤量は影響しやすい。

スタートの瞬間、スタートしてある程度流れが落ち着くまでのダッシュ、あとはラストスパートで速度を上げる時に重量の影響が出る。

もっとも多くハンデ戦が行われているのが1200m戦だという事を見ても、やはり最高速やスタミナではなく、瞬発力に斤量の影響が出やすいと判断できる。

実際に統計をとってみた

過去1年間にJRAで行われた芝1200mのハンデ戦で、斤量別の成績を調べてみたところ、斤量が重くなるほど勝率が下がったり、斤量が軽くなるほど勝率が上がったりというわかりやすい傾向は見られませんでした。

斤量 勝率 連対率 複勝率 平均6F 平均1F
00.0~49kg 0.0% 0.0% 0.0% 68.75 11.46
49.5~51kg 8.3% 11.1% 13.9% 69.49 11.58
51.5~53kg 7.2% 12.5% 18.4% 69.32 11.55
53.5~55kg 4.3% 12.0% 17.1% 69.53 11.59
55.5~57kg 9.4% 18.8% 37.5% 68.99 11.50
57.5~59kg 0.0% 20.0% 20.0% 68.80 11.47

定期的に集計を取っていますが、それでもここ十数年、同様の傾向が続いています。

コースに坂のあるコースと平坦なコースで分けてみても、これと言って何か特徴があるようなデータはありませんでした。

むしろ斤量が重い方が勝率が良かったり、普段の経験則から見てもハンデ戦で斤量の軽い馬ばかり勝ってるわけでは無いし、斤量の1キロや2キロの差の影響はハッキリ言って思っている以上に誤差的な違いなのかも知れない。

凱旋門賞の事例

フランスの凱旋門賞では3歳牝馬の斤量は54.5kgで、それに対して4歳以上の牡馬は59.5kgなので、実に5kgもの斤量差が生じます。

そして、凱旋門賞を目指すような馬は一流の馬たちなわけで、能力があって5キロの差があると、やはり過去の歴史を振り返ってみても3歳牝馬は凱旋門賞をよく勝っています。

強い馬が勢揃いした中での割と大きな斤量差やから、意味があるんやろね!

新人騎手の事例

新人騎手はデビューから規定の勝利数をクリアするまで斤量の減量措置があり、減量措置がなくなったら勝てなくなった…という事例が過去にたくさんある。

馬の能力的には減量する必要が無い馬が減量されるわけで、ミス無く無難に乗ってくれさえすれば、そりゃ有利だよねって話。

そもそも新人がやってしまいがちなペース配分・スタートや位置取り・コース取りのミスとかは、斤量1キロや2キロどころでは足りないほどのミスが殆ど。

今までは「減量で勝ち負けできそうな馬」乗れてたけど、減量が無くなったからそういう馬が他の減量騎手に回された結果、馬質が低下して勝ててないだけの可能性もあるしね。

だから、技術や経験の未熟さを埋めるのに、減量は「役には立っているが、十分とは言えないかも知れない」と言ったところかな。

日本のG1の事例

ダービーは牡馬57キロ・牝馬55キロで、牝馬が斤量で有利なのに牝馬は殆ど出走すらして来ないし、出走しても活躍できるケースは稀。

2キロの恩恵があるのだから、どんどん出れば良いのに…と思うかも知れないけど、2キロ程度じゃ牡馬と牝馬の一般的な能力差は埋まらないという事の証明だと思います。

ハンデの考え方

ハンデ戦は強そうな馬には斤量を重く、弱そうな馬には斤量を軽くする事によって、全馬が横並びなレースになるように調整されている。

しかし、多くの競馬ファンは「ハンデ軽いから有利」とか言いがち、、理論上「差がない」状態に調整されているのだから、軽ハンデ馬が有利という考え方はおかしいわけ。

だって差を無くしたんやから。

実際には斤量を軽くしなきゃいけないほど弱い馬は、斤量が1キロ2キロ軽くなったとしてもやっぱり弱くて、馬券的には斤量重い馬の方が回収率が良かったりする。

結論

以上のように総合的に考えると、斤量はある程度は競走能力や競走結果に影響を与えるが、皆がイメージしているほど1キロ2キロ程度の増減では影響しない。

本来能力的に差が無いはずなのに、こっちの馬は斤量が軽く、こっちの馬は斤量が重い…という時に斤量の軽い方が馬券的に狙い目の可能性はある。

函館SSみたいに斤量の軽い馬の活躍が目立つ重賞もあるし、逆に斤量差をあまり感じない重賞もあるし、レースの特色によっても違うかな。

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